6.トキノハの手しごと③ −施釉のしかた−

6.トキノハの手しごと③ −施釉のしかた−

こんにちは、大川です。

前回に引き続き釉薬のお話で、今回は「施釉編」です!

 

「釉薬を施す」と書いて「施釉」、「釉掛け」と言ったりもします。

もしかすると、みなさんが釉薬がどういったものかイメージはできるけれど、説明するときにすこし言葉につまるかもしれません。

粘土でかたち作った器を仕上げて焼成するとき、絵を描いたり、色付けをしたりして焼成する、というイメージかもしれません。

もちろん、装飾的なところもありますが、ざっくりとイメージ的にも物質的にも言ってしまうと、器全体にガラスのコーティングをしています。

このコーティングと言ってしまった釉薬の役割と方法をのぞいてみましょう!

 

 

 

【お買いもの目線:釉薬のやくわり】

 

入門編②の焼くことの役割で、土を焼くことで、水にとけない物質に変化させている、というお話をしました。

改めて考えてみると、釉薬がなくても器としての役目は果たせそうな気がします。

しかし、釉薬は「うつわ」として陶磁器が成り立つために三つの大きな役割を担っています!

 

  • 水を通しにくくする
  • 強度を増す
  • 見た目の良さ

 

①については、土にもよりますが、土だけだとじんわりと水がしみてきます。

 

また、②についても、ガラスの強度と、また土とガラスの二層になることで厚みも増します。

 

①と②では、釉薬というガラスでコーティングすることで、物質的に器の丈夫さを可能にしてくれています。

 

ただ、③が一番重要にしたいポイントです!

釉薬の研究は出し尽くされているのではないかと思います。

けれど、日々研究されているのはなぜなのかと考えたとき、

 

一つは、自然の原料は日々少しずつ成分も違い、土の状態も日々変化し、毎回同じように窯を焼き上がることがありません。

ささいな変化があり続けるため釉薬はコントロールできないけれど、面白く、常に新しい発見をすることができます。

 

もう一つは、私たちが子どもの頃食べられなかったものが大人になって味わえるようになったように、また、日々、時代によっても食べるものが変化しています。

手づくりのうつわは、一辺倒な存在ではなく、その時代に合った使ううつわとして、柔軟に寄り添うことが大切な役目を果たしているように思います。

 

 

素地の土と釉薬のそれぞれの焼き上がりの組み合わせを、手に取って、自分だけのうつわのいろをじっくりと見つけ出してもらえるとうれしいです。

 

いろに関わってくる釉薬の施し方について、もっと見てみましょう!

 

 

【作りて視点:施釉のしかた】

陶芸においては、器の色つけのことを釉薬を「かける」や「施釉」すると言います。

施釉の仕方にはいくつか方法があるのですが、釉薬を器全体を均一に掛けるために、筆で塗るという方法はあまり主流ではありません。

きれいに素早く掛けるために、一瞬で器全体に釉薬が掛かる方法が適した方法があるからです。

 

今回は、最も行なわれる二大施釉の仕方のうち、トキノハが主にしている「浸し掛け(ずぶ掛け)」を見てみようと思います。

 

 

ずぶ掛けでは、前回作ったどろ状の釉薬の中に、素焼きした器の素地をチャプンと3秒くらい浸けます。

スッと、釉薬の中に浸しいれて、3秒間浸け、スッと取り出します。

 

どういう仕組みになっているのかというと、

 

①釉薬は絵の具ではありません!

水に溶かしただけの粉なんです。

 

②素焼きをした素地は、水に溶けず、そして吸水性のある物質に変化しています!

植木鉢やレンガで、柔らかくないスポンジみたいに水を吸ってくれます

(入門編②の焼くことの役割をご参照ください!)

 

と、それぞれの特性によって成り立つのが施釉の仕組みです。

 

つまり、チャプンと素焼きの素地を釉薬の液体の中に潜らせると、水分を吸水すると同時に、原料の粉も吸い寄せられるように、素地にくっ付いてくる、というわけです。

3秒というのが定番の目安で、どの釉薬も、その色味に合わせてどろの濃さを調節しています。

もちろん、釉薬の性質によっては、もっと短い時間であったり、反対にもう少し伸ばして施釉の調節をすることもあります。

 

 

このずぶ掛けの施釉の仕方にも手づくりならではのポイントがあります。

 

それはトキノハの場合、手で持って施釉します。

 

機械的に均一にきれいに釉薬を掛けるだけではなく、手作業でできるきれいな釉薬の掛け方や、釉薬の流れ方を表現したいという思いがあります。

それからもう一つ、持っている指のところには釉薬が掛からないので、後からきれいに釉薬をのせて仕上げます。

指の跡も釉だまりの景色として、器の表情に変化を加えてくれます。

 

この窯に詰める前の最後の仕上げ、中々てまもひまもかかる上、仕上がりに影響すると思うと最後まで気は抜けません。

このようにして、本焼成のひとつ前、施釉と仕上げが行なわれています。

 

実際、施釉するときに、器の「どこ」を持って掛けようか、と考えて施釉しています。

きれいに、けれど、それだけではないなにか。

トキノハでうつわを手にしてみるとき、指跡の位置から釉薬がどのように掛けられたのか想像してみるのも面白いかもしれません。

ささやかな色みの変化にあわせて、うつわに料理を盛り付けるときに、うつわの上下左右や前後ろなどを決めてみるのもいいかもしれません。

 

ちなみに取手のついているカップは、持ち手を右にしたときに、一番口が当たりにくいその取手の右奥側になっています。

そういったトキノハの手づくりの部分、施釉編からぜひ、楽しんでもらえればと思います!

 

 

ありがとうございました!

次回もよろしくお願いします!

 

 

文・図 大川理可

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