こんにちは、大川です。
前回の入門編③では、まず、最初の一歩として、寸皿と寸鉢のお話をしました。
今回から、手しごと編として、
寸皿と寸鉢をもとに、他のshiro-kuroシリーズの器と共通のある、
かたちやいろなど、ひとつひとつのアイテムやポイントで、「なぜか心にひっかかる」を見つけながらお話ししたいと思います。
そして、その中にある、トキノハらしさも探っていきましょう。
【線彫りのあるうつわ】
寸皿、寸鉢にはリムと呼ばれる、段差のある縁の部分がありますが、
そこには、「線彫り」の施しがなされています。
線彫りの装飾は、shiro-kuroシリーズの、全ての器ではありませんが、特徴のひとつです。
線彫りのある器は、
- 寸皿、寸鉢
- 蕎麦猪口カップ、コーヒーカップ、マグカップ、フリーカップ、細湯呑み
- 飯碗 平・丸
もちろん、今後増える可能性もあります。
そして、線彫りの施されている部分は、
- 寸皿と寸鉢は、リムの部分
- その他のうつわは全体です。
【お買いもの目線】
お店で器を見ていただいているとき、「実は線彫りしているんですよ」と、ご案内をさせていただいています。
黒い器は、釉薬がさらっとしたものなので、浅い線でも埋もれることはほとんどなく、
本焼成後もシャープに現れています。
対照的に、白い器は、釉薬が少しとろっとした雰囲気で、さらに乳濁がかっているので、線は柔らかい表情になっています。
そして縁白の器は、口元にかけた白い釉薬は線彫り上を伝い、黒いエリアに流れた景色になっています。
この線、好みが分かれます。
ハッキリ線とした線の中に流れる釉薬を好む方、
そしてその立体感を楽しむ方もいれば、
女性的な線の細く、柔らかな表情のもの、
かつ、対照的に、シャープな印象の仕上がりが好みの方もいます。
そのため、線について確かなことを言えるとすれば、
くっきりと見える、や、ちょっと寄り道をしている、
やわらかくささやかな、や、みっちりと規則正しい、と様々な線がある中で、
良い線彫り・悪い線彫りはありません。
線彫りが見えることは、器のアクセントの一つではあります。
けれど一方、線彫りが表立って見えていなくても、生地のベースとしてあるため、白色の色味の変化に影響しています。
shiro-kuroシリーズの線彫りのないシリーズと比べた時に、気づくことができました。
もし、線が寄り道していても、そこが良い景色や雰囲気をもたらしてくれていることがあります。
【作りて視点】
さて、そんな線彫り、厳密に線の入れ方に決まりがあるわけではありません。
まっすぐに引いてやるぞという熱意、幅、良い仕上がりになりますようにという念はあります。
職人によって線の入れ方も異なります。
- 縦向きに器を持ってまっすぐ線を下ろす↓
- 横向きに器を持って線を引く→
- 口もとから高台に向かう
- 逆さまに向けて、高台から口に向かう
現在、トキノハの工房うらでは、これらを組み合わせた三パターンで作られています。
私は口もと縦(左回り)派です。
また、線を引く道具は鉄筆といい、先が細く尖っている鉄の棒を使っています。
この道具も何本かあり、数コンマミリの差で、ペン先のとがり具合が異なります。
なぜ、種類があるのかと言えば、線を引くときの土のかたさの合わせるためです。
そもそも、線彫りをするタイミングは、かたちの成形後、土を完全に乾燥させる前です。
この、半乾きのタイミングも、まだ、乾き始めたばかりで柔らかい時から、もうすぐ乾いてしまう少し硬い時と、土のかたさの差が大きいです。
そのため、かたさに合わせた鉄筆を選び方は、柔らかい時は先がまるめ、乾いていたら鋭利、という具合になります。
これだけでも線の種類は無限にあるような気がしてきます。
「ただ線を引く。」
言葉に表してみると、とてもシンプルです。
ですが、いろいろな要素が組み合わされて、人の手によって引かれる線は、全く同じものがありません。
私の場合、細かくし過ぎなくていいよと言われるのですが、コレ、ちょっと油断すると広くし過ぎてしまいます。線の幅のたった1mmの差は、100mスプリント走の0.1秒のように大きいです。
それなので、線を引く時は、まずは商品の見本を手に取って、線をじっくりと見てから作業を始めています。
「トキノハの器」らしい線の間隔も、大切にしているトキノハの「手づくり」な部分を作り上げている一つだからです。
トキノハらしさを「線」からしっかりと器に落とし込みます。
手づくりで出来上がるものの良さというのは、きっとそういうところではないでしょうか。
上手なだけでも綺麗なだけでも、じゃなくて、
ていねいさ、や、どこか味のある、というもの。
うつくしい「線」は、きっとその「トキノハらしさ」が詰まっているかということのように思います。
以上、【入門編4トキノハの手しごと①】でした。
次回、入門編⑤もよろしくお願いします。
ありがとうございました!
文・図 大川理可